五感を通しておいしい刺激を受け取っていると、胃酸の分泌も促されます。
胃酸には、「多過ぎるのが問題」というイメージがあるかもしれませんね。胃薬のCMで、そのように刷り込まれているせいでしょう。
しかし、栄養素を重視した治療を行っている医師の間では、胃酸を不足させている人が想像以上に多いことが知られています。特に、アレルギー、アトピー、喘息、貧血、慢性疲労などの場合には、胃酸の不足がないかが真っ先にチェックされるはずです。
胃酸は、体内のほぼすべての消化酵素と連動しています。胃酸の分泌が不足した場合、体内の消化酵素の働きが全般的にトーンダウンしやすくなります。食べたものをしっかり消化し、吸収し、栄養素として役立てるためには、まず胃酸を適切に分泌させることが大切です。
ところで、胃酸って、そもそもどんなものなのか?
今日は、そのあたりをお話ししておきましょう。
胃の内側の表面は、上皮細胞と呼ばれる細胞でカバーされています。
上皮細胞にもいくつかのタイプがあり、その中の「壁(へき)細胞」から胃酸が分泌されています。
壁細胞の細胞膜には、「プロトンポンプ」と「塩素チャネル」と呼ばれる輸送役のたんぱく質が埋め込まれています。
胃酸を分泌したいタイミングになると、壁細胞の中にあった「水素イオン」が、プロトンポンプの働きで胃の中のスペースへ吐き出されます。
同時に、細胞の中にあった「塩化物イオン」が、塩素チャネルを通って胃の中へ送られます。
胃の中へ飛び出した水素イオンと塩化物イオンは、すぐに合体して、塩酸になります。
こうして胃の中で作られた塩酸が、「胃酸」と呼ばれています。
ですから、胃酸の正体は、塩酸そのもの。とても強い酸性の分子です。
胃液には、胃酸、粘液、消化酵素などが含まれています。
胃酸の割合が多くなるほど、胃液のpHは低くなります。
胃の中に食べ物が入っていない時の胃液のpHは、1~1.5くらい。食後は、pH4前後まで高まりますが、食べ物が出ていくとまた、1~1.5の状態に戻ります。
次回は、「おいしく食事を楽しんだ時」と「スマホに集中している(ついでに食事も済ませた)時」で、“なぜ胃酸の分泌量が変わってくるか”のメカニズムについてお話しします。
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